前職の会社を退職して転職先に入社する間の空白期間は、「国保は高いし病気にならなければいいや」と思っていませんか?
じつは、退職して転職先への入社までの空白期間が短い人の場合、会社の任意継続の健康保険よりも国民健康保険の方がお得です。
転職先が決まっていて、空白期間がたとえ数日であっても国民健康保険の手続きをしないと、退職日によっては国民年金の未納月ができてしまうこともあるので注意が必要です。
そこで、今回は転職先が決まっている人だけでなく、そうでない人も対象に、健康保険のもっともお得な切り替え方を解説します。
退職したら転職先が未定でも、まずは健康保険加入手続き!
退職時に転職先が決まっていない場合は、その多くは任意継続の方がお得です。一方、転職先が決まっている場合は、国民健康保険(国保)の方がお得なケースもあります。
まずは、どっちがお得かを判断するために、社会保険の仕組みを理解しなければなりません。そのために、国民健康保険と任意継続保険の加入期間の考え方を解説します。
社会保険の資格喪失月と資格取得月が異なるときは要注意!?
会社を退職した日の翌日に、社会保険(健康保険と厚生年金・あるいは共済年金の資格)の資格を喪失します。
資格喪失月と資格取得月とは?
POINT
- 「資格喪失月」・・・退職日の翌日を含む月
- 「資格取得月」・・・会社に入社した日の月
社会保険に加入していない月は、自動的に国民健康保険・国民年金加入月とされますが、それは手続きをしないと、自動的に「未納月」となってしまいます。






国民健康保険料は「税金」扱い!?
国民健康保険は加入した後、脱退手続きを忘れると引き続き保険料が請求されるので注意が必要!
国民年金に関しては、転職先の会社が厚生年金あるいは共済年金の加入手続きをすると、国民年金1号被保険者から2号被保険者に異動しますので、保険料の請求が来ることはありません。
また、国民年金は一旦加入すれば、後は会社を退職したり再就職したりしても、加入手続きや脱退手続きではなく異動手続きが行われます。
何故このようなことが起こるかというと、国民健康保険の保険料は税金として地方自治体(市町村)が管理しているのに対して、国民年金は年金機構が一括して管理しているからです。
国民健康保険と社会保険の保険料、根本的に計算方法が違う!
税金である国民健康保険の保険料の本年度は、4月から翌年3月で前年分の税額として支払います。
本年度支払い分の税額を加入期間分だけ按分(あんぶん:基準となる数量に比例した割合で物を割り振ること)して、保険料(税金)を納付書で分割・あるいは一括で支払います。
その税額は前年(1月~12月)の総支給額から税金や社会保険料等・控除した「所得額」からさらに基礎控除を控除した額から計算されます。
保険料の計算方法での解説の時に必要となるので、「保険料が発生する加入月とは、その月の末日に国民健康保険の被保険者だった月」であることを覚えておこう
一方、厚生年金と共済年金(以下「厚生年金等」という)の制度から国民年金にまとめて拠出金が支払われているので、厚生年金等の被保険者は、国民年金の保険料を支払ったものとみなされます。
ですから、国民年金は1号から2号へと、あるいは2号から1号へと身分が異動するだけなので、再就職した会社が異動手続きを行うため、被保険者本人が手続きする必要はないのです。
国民年金・厚生年金等の年金制度の本年度は、8月から翌年7月です。
保険料を決めるのは標準報酬月額ですから、退職した後の任意継続保険料も月額請求か一括請求となります。
そして、社会保険料の年金額は、資格喪失月の前月まで請求され、資格取得月当月から請求されるので、国民年金と厚生年金の二重払いは発生しません。
転職するまでの間の健康保険はどうしたら良いのか?
退職後の健康保険には、3つの選択肢があります。
- 「任意継続」
- 「国民健康保険」
- 「家族の扶養」
毎月納める保険料などを比較し、検討しましょう。
健康保険の任意継続は、前職退職時の標準報酬月額に住所地管轄の協会けんぽの都道府県支部または前職の健康保険組で手続きを行います。
任意継続保険料の計算の仕方
協会けんぽのHPで保険料を調べることができます。
退職時の標準報酬月額に健康保険料の保険料率(40歳以上の場合は介護保険料率も追加)をかけた金額が月額保険料となります。
任意継続健康保険の場合の標準報酬月額の上限は28万円です。
東京都の場合は月額27,720円が上限です。12ヶ月分の上限は332,640円です。
在職中は、会社が半額(協会けんぽ以外の健康保険組合の場合は独自の利率)負担してくれていたので、月収の総支給額が27万円未満の人は、だいたい在職時の2倍の健康保険料の支払いとなります。
扶養被保険者がいる場合も、在職時同様に本人の保険料だけで扶養被保険者全員分の健康保険加入となります。
失業中の社会保険に加入しないパート等を行っても、社会保険に新たに加入しなければ、任意継続保険加入のままで大丈夫ですが、継続加入期間は2年までです。
国民健康保険の計算の仕方
家族全員の「前年(1月~12月分)の源泉徴収の『所得額』から33万円控除した金額」の合計が世帯の基準額です。
前年の源泉徴収の『所得額』とは、給与控除後の「給与所得控除後の金額」という欄の金額です。総支給額と間違えないようにしましょう。
基準額から、所得割と基準割を算出し、その合計の金額が国民健康保険料です。
・所得割=基準額の約10%(住所の市区町村によって多少率が異なります)
・基準割=世帯人数×約5万円
ざっくり計算すると、だいたい400万円の3~4人家族の世帯収入だと40万~50万ほどになります。
この本年度(4月~翌年3月)の12か月分の保険料ですから、「退職日の翌日(社会保険の資格喪失日)」の月から翌年3月分までの保険料を按分計算して、その合計額を1~数回に分けて、納付書によって支払いが可能な窓口で支払います。
国民保険料納付書の請求金額=(本年度の保険料額/12)×○ヶ月
金融機関の口座引き落としも、申し込み手続きをすると可能です。
簡単に書きましたが、その計算は複雑で、市町村によって基準額にかける率や上限額等も異なりますので、正確な金額を知りたいときは、世帯全員の源泉徴収票を用意して、市区町村に問い合わせましょう。
参考までに東大阪市のHPの「健康保険料の決め方」をご紹介します。
あなたのお住いの役所のHPにも似たようなサイトがあるかもしれません。
【結論】転職先が決まっている場合はどっちにすべきか?
この計算方法だけ見ると、年収の高い人も低い人も掛け率が同じですし、基準額が世帯合算なので、国民健康保険料は比較的高くなりがちです。
ですから、1年間の保険料を比較すると、社会保険の任意継続保険料の方が安い可能性が圧倒的に高いでしょう。
任意健康保険の標準報酬月額の上限額が28万円なので、27万円未満の1人世帯の場合、国民保険料よりも任意継続保険の方が安くなる
しかし、次の転職先が決まっていて空白期間が短いなら、国民保険の場合は保険料請求月が0か月となることもあります。また、一人世帯で前年の世帯所得が少額なら、数か月でも国民健康保険の方が安い場合もあります。
任意継続保険の場合、1日でも加入期間があれば、その月の1ヶ月分の保険料は請求される


転職先が決まってから退職した場合、多くは1ヶ月足らずの空白期間をもっての再就職となります。転職先を決めて退職したときは、国民健康保険料の方が圧倒的に少額の可能性もあるので、検討が必要です。
【余談】転職未定のまま退職した場合、月収27万未満の扶養家族無しの人は国保かも?
転職先が未定のまま退職した場合は、任意継続と決めつけずに、月収によっては検討が必要なこともあります。
任意継続保険の上限の標準報酬28万円は、月収の総支給額が270,000円~290,000円なので、月収が27万円未満の方は扶養家族がいなければ、国保も検討の余地があるのです。
国民健康保険には、保険料が払えない場合のさまざまな減免処置をして貰える可能性もありますので、それらも総合的に考慮に入れて判断が必要です。
検討したい方は、市区町村の国民健康保険課の窓口で相談しましょう。
退職後、転職するまでの間の健康保険の手続き方法
国民健康保険
加入手続き
退職した日の翌日から14日以内に住所地の市区町村の国民健康保険課(市区町村によって名前が異なることあり)の窓口に以下の物を持って手続きに行きましょう。
加入手続きに必要なもの
- 健康保険の資格喪失証明書
社会保険の脱退手続きは退職して1週間以内が義務化されていますが、その手続き後に郵送となりますので、他県に本社があったり手続きをアウトソーシングしている会社の場合は、急いで貰いましょう。間に合いそうにない場合は、日本年金機構の窓口に身分証を持って行けば発行して貰えます。 - あなたと奥さんやその他扶養家族がいる場合は、全員のマイナンバーがわかるもの(通知カード等)
- 届出人の本人確認書類(免許証等)
- 認印
脱退手続き
転職先に再就職したときは、再就職の前日に国民健康保険の資格を喪失し、就職日に社会保険に加入することもあるので、健康保険の異動届が必要となります。
再就職して社会保険に加入したときは、国民健康保険の脱退手続きをしないと、保険料の納付請求がきてしまいますので、脱退の手続きを行うのを忘れないようにしましょう。
手続きは郵送でも可能です。
脱退手続きに必要なもの
- 国民健康保険異動届(脱退届出書)
※お住いの市町村のHPからダウンロード可能 - 新たに加入した健康保険証のコピー
※先に新しい健康保険証の被保険者番号だけでも可) - 今まで利用していた国民健康保険証(原本)
- マイナンバー通知カードまたは個人番号カードのコピー
- 本人確認書類のコピー(運転免許証・パスポート・個人番号カードなど)
ここで問題が発生します。
本当は、脱退手続きは、再就職した日から14日以内と決まってはいるのですが、新しい健康保険証のコピーが間に合いませんので、健康保険証をもらったらできるだけ早急に郵送手続きを行いましょう。
手続きの前に国民健康保険の保険料の納付期限が来てしまう方は、役所に問い合わせましょう。
多くの場合は一旦支払う可能性も高いのですが、過払い金は還付されます。還付手続きも郵送でできます。
任意継続健康保険の手続き
退職した会社で社会保険の加入期間が2ヶ月以上ある場合、その会社加入の健康保険組合、あるいは協会けんぽに申請書を提出して申請の手続きを行います。
健康保険の任意継続に加入するためには、次の2つの条件を満たしていなければなりません。
任意継続の2つの条件
- 資格喪失日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上あること
- 資格喪失日(退職日の翌日等)から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること
扶養家族も任意継続の扶養被保険者とするのであれば、その手続きも同時に必要です。
さらに、扶養家族であれば課税証明が必要なケースもあります。
手続き期限は、退職した翌日から20日以内です。
窓口に必要書類をもって手続きに行くか、郵送で行いましょう。
任意継続健康保険の手続きの際は、退職前に会社の人事・総務がサポートしてくれる場合もありますので、問い合わせてみましょう。
社会保険が協会けんぽの場合は、住所地管轄の支部で加入・脱退手続きを行うことになります。
どちらも郵送で手続きすることも可能です。
社会保険が健康保険組合の場合は、ご加入の健康保険組合に直接問い合わせましょう。こちらも必要な手続きは郵送で可能です。
保険証が届くまで、日数がかかりますので、それまで自費診療で行わなければならない可能性もありますが、病院によっては被保険者番号が分かれば保険診療を受けられることもあります。
一旦、自費診療扱いで医療費を支払った場合は、保険証が届いてから還付手続きができます。
任意継続健康保険の加入開始は退職の翌日なので、手続き前の自費診療についても還付請求ができます。医療費の領収証の再発行をしてくれない医療機関もありますので、自費診療となった場合は、領収証をとっておきましょう。
国民健康保険の手続きをしたら、セットで国民年金手続きをしなければなりませんが、任意継続健康保険の手続きのあと、改めて市区町村で国民年金の2号保険者から1号保険者への手続きが必要です。
また、転職先に再就職するときは、国保と同じように脱退手続きが必要です。
加入した同じ場所で脱退手続きを行います。加入の際に、脱退するときの方法も確認しておくことをお勧めします。
協会けんぽはHP「任意継続被保険者資格喪失申出書」から申請書がダウンロードできます。
健康保険組合の場合も、HPを確認してみましょう。
まとめ
いかがでしたか?
「国保は高い」という常識にとらわれず、敢えて国保の方がお得である場合もあることをご理解いただけたでしょうか?
転職先が決まっていて空白期間が短い場合は、国民健康保険がお得ですが、退職時に転職先が決まっていない人は、月収の支給額が27万円以上であれば、任意継続保険の方がお勧めです。
月収の総支給額が27万円未満で扶養家族のいない人は比較を検討した方が良いでしょう。
任意継続保険の手続きは期限厳守ですから、任意継続を希望する人は、手続きを急ぐ必要があります。
国保や任意継続以外の方法として、家族の被扶養者になることも可能です。
しかし、法的に男性が奥さんの扶養に入ることは可能ですが、転職の再就職までの間、さまざまな理由から奥さんの扶養に入る男性は滅多にいないのが現状です。